タイカン、期待膨らむスペックを一部公開

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7月30日、ポルシェは2019年後半にデビューが予定されている同社初となる4シーターEVスポーツカー「タイカン」のスペックを一部公開した。

 

タイカンという車名には、「若くて元気な馬」という意味が込められており、1952年以来続くポルシェのエンブレムの中央の跳ね馬こそ、タイカンのモデルとなっている馬である。

 

現在、2019年後半のデビューに向けて世界中で着々とテストを重ねているタイカンとは、一体いかなるものか。

 

ファンの期待を膨らませるべく、多くの含みを残しながら公開されたスペックについて見ていくこととしよう。

 

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▶タイカンの動力性能

タイカンは、コードネーム「J1」というポルシェのEVスポーツカー用の最新プラットフォームを採用しており、テスラモデルSと同じように2基の駆動モーターをそれぞれ前後のアクスルに配置し、800Vのリチウムイオンバッテリーを車体中央部の床下に搭載する。

 

そして、2基の*PSMモーターの出力は、およそ600ps(440kW)以上を発揮し、0-100㎞/h加速は3.5秒以下、0-200㎞/h加速は12秒以下で駆け抜けることができるようだ。ちなみに、テスラ モデルS P100Dの0-100㎞/h加速は驚愕の2.7秒である。

 

一方、EVの最大の課題である航続距離は1回の充電で500㎞以上走行可能ということで、テスラ モデルS P100Dよりもわずか6㎞短いようだ。この航続距離については、走行状況によって左右されるところが大きいので、タイカンとテスラの差は誤差の範囲というのが適切だろう。

 

航続距離を左右する800Vの高電圧リチウムイオンバッテリーは、空の状態からわずか15分で80%の充電が完了するという。

 

動力性能と航続距離ともに、ライバルであるテスラ モデルS P100Dには現段階では見劣りするが、ポルシェが意図的に確定的な数値を発表していないことや、高電圧バッテリーとEVパワートレインで業界随一の技術力を持つEVハイパーカーブランド「リマック」との技術提携がある以上、来年のデビューに合わせてテスラを凌いでくることは十分にあり得るだろう。

 

*PSM:永久磁石シンクロナスモーター

 

▶タイカンのハンドリングとフットワーク

タイカンは前後に駆動モーターを配置し、車体中央部に高電圧バッテリーを搭載するレイアウトとなっているため、理想的な前後重量配分と低重心が見事に実現されている。したがって、限りなく911に近いハンドリングとフットワークを再現できる可能性が高いのではないか。

 

前後アクスルに駆動モーターを搭載しているので、駆動方式は4WDとなり、あらゆる路面状況で高いパフォーマンスを発揮するのは折り紙つきだろう。もちろん、デジタルなEVスポーツカーであるから自動運転への備えも抜かりなく、タイカンには*レベル4の自動運転技術が搭載されるようである。

 

タイカンはツッフェンハウゼン工場で生産されるようで、タイカン生産に向けた工場の新設や既存施設の拡張が進められているようだ。

 

*レベル4自動運転:システムが高速道路など特定の場所に限り、交通状況を認識して人に代わって全ての運転操作を行う。

 

▶ポルシェの本気のEVシフト

ポルシェは2022年に向けたEV推進計画について、当初予算の2倍以上となる約7,900億円(2018年7月30日時点)以上を投じるようだ。そしてこの巨額の資金は、タイカンの開発はもちろん、現行モデルのハイブリッド化やEV化、生産工場の拡大、EV用の新しいテクノロジーの開発、急速充電ステーションの整備などに使われる。

 

巨額の資金とその使途、そしてEVハイパーカーブランド「リマック」の株式取得によるEV技術提携を勘案するに、ポルシェのEVシフトへの並々ならぬ本気度が伺われる。

 

近くやって来る2025年のEVビッグバンに向けて、欧州メーカー各社はEVの普及と推進のための環境整備を着々と進めている。BMW、ダイムラー、フォード、フォルクスワーゲングループが設立した最大350kWのEV用急速充電ネットワークの合弁会社「IONITY(イオニティ)」は、2020年までにヨーロッパ全土に400ヶ所のEV急速充電ステーションを整備すると公言している。

 

一方、EV界のパイオニアであるテスラは、ヨーロッパ全土に1,229ヶ所の急速充電ステーションをすでに設置している。しかしながら、テスラは独自規格の電源プラグ「スーパーチャージャー(SC)」を用いており、全ての欧州車が利用可能な標準規格の電源プラグ「コンバインド・チャージング・システム(CCS)」を採用するイオニティに対抗できるか、今後の規格争いに注目が集まる。

 

この点、カギを握るのは日本メーカーということになろうが、日本メーカーの独自規格「チャデモ」を推進するとなれば、日米欧の三つ巴の戦いとなり、消費者にとってはいささか不便が生じよう。このような不毛な戦いを避けるべく、自動車メーカー各社には大局的な視点に立ってもらいたい。

 

ガソリンやディーゼルの給油ノズルのように、どの国でもどの車種でも同じように使える規格へと統一し、EVの世界的普及に注力願いたい。

 

▶今後の展開

タイカンは2019年後半にデビューし、2020年に発売される予定だが、その先の予定もすでに決まっているようで、今年3月のジュネーブモーターショーで公開されたタイカンのクロスオーバーモデル「ミッションE・クロスツーリスモ・コンセプト」が2021年に登場するようだ。

 

詳細は一切不明だが、来年のタイカンのデビューを機に、ポルシェはEVラインアップにさらに弾みをつけ、EVスポーツカーのリーディングカンパニーとしての地位を築くことができるか、まさに今からが正念場となろう。

 

▶未来のエンジンサウンドの行方

タイカンの全貌が徐々に明らかになるにつれて、スポーツカーのEV化へのアレルギー反応とやらが徐々に弱まってきているように感じる。

 

ドライビングプレジャーはエンジンサウンドと、ドライバーとクルマの一体感で構成されていると言っても過言ではないだろう。この点、エンジンサウンドはEVと内燃機関では、決定的に違う。クルマの命を感じ取れる息吹であるエンジンサウンドこそ、興奮を呼び覚まし、アドレナリンを解放してくれる。

 

しかし、その一方で、ドライバーとクルマの一体感は、ドライバーの意思をクルマが瞬時に、しかも忠実に再現してくれることで生まれる。この一体感は、タイカンの構造を見る限り、内燃機関に劣るどころか、むしろEVに分があるような気さえする。

 

内燃機関よりもコンパクトな動力源であるモーターは、柔軟なレイアウトで理想的な前後重量配分を可能にし、車体中央の床下に搭載されるバッテリーは低重心化を一層強化する。キレのあるハンドリングと、軽快なフットワークにはもってこいの構造を持つのである。

 

ステアリングを握り、アクセルを踏み込めば、動力源のことなんか忘れて、歓びに浸れることは間違いない。しかし、そこでふと何かが足りないと感じてしまう。

 

そう、クルマの息吹、エンジン音である。

 

果たしてEVにおいてエンジン音に代わる歓びの源泉とやらはいかにして創られるのだろうか。それとも、排気ガスを伴うエンジン音は地球温暖化の悪しき象徴として葬り去られ、何か別の音響的な楽しみを見出す時代へと突入するのだろうか。

 

EVの登場と普及で、ドライビングプレジャーに対する我々の価値観がどう変わっていくか。技術革新による価値観の変遷を追っていくのも今後の一つの楽しみかもしれない。

 

Photo source:PORSCHE

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