あと10日もすれば、アメリカのカリフォルニア州モントレーで、世界中のエンスージアストが年に一度最高に胸を躍らせるひと時がやって来る。
世界中の最もラグジュアリーでホットなスーパーカー達が一堂に会する「クウェイ・モータースポーツ・ギャザリング」が開催されるのである。
今年の注目は何と言っても、この3台。
ランボルギーニ アヴェンタドールSVJ、ブガッティ ディーボ、マクラーレン セナ。
キング オブ サーキットを賭けた三つ巴の戦いは、8月24日にその火ぶたを切る。
さて、アヴェンタドールSVJはつい最近、ニュルブルクリンク北コースで市販車世界最速となる6分44秒97というタイムを叩き出した。この記録は、これまで最速を誇っていたポルシェ911 GT2 RSを2秒半以上も上回る。
発売前というタイミングで、しかも3台が一堂に会する前に、こんな驚愕の記録を打ち立てたのは、ライバル2台に対する「猛牛」ランボルギーニの挑戦状とも受け取れよう。
この挑戦を受けて立つのは、イギリスが誇る超軽量の韋駄天「マクラーレン セナ」と、フランスが誇るマッスルモンスター「ブガッティ ディーボ」である。
では、この3台の特徴を見ていくとしよう。
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▶ニュル最速のアヴェンタドールSVJ
ニュル最速を誇るアヴェンタドールSVJだが、他の2台と比べると、パワーは最も控えめである。一方、まだ正確な数値は公表されていないが、最強のパワーを備えるとされるブガッティ ディーボは、アヴェンタドールSVJの倍近いパワーとなりそうだ。770psで物足りなく映ってしまうのは、異常というか、異次元の世界である。
では、具体的なパワートレインに話を移そう。通常のアヴェンタドールSと同じ自然吸気の6.5ℓV12は、大型化したエアインテークとチタン製のインテークバルブの採用により、パワーは大幅に強化されている。最高出力は740psから770psへ、トルクは690Nmから720Nmへと向上が図られ、どんな状況からでも一気に加速できる強靭な瞬発力を備える。
50㎏の軽量化を施したボディは1,525㎏となり、そこに770psのV12を搭載したことで、パワーウェイトレシオは、505ps/tを実現しているようだ。ランボルギーニによると、この数値はクラストップであるとのことだが、超軽量のマクラーレン セナのパワーウェイトレシオは、異次元の668ps/tである。
トランスミッションは、専用のシフトプログラムへと書き換えられた7速LDFが組み合わされ、駆動方式は、後輪操舵(LRS)付きの第5世代ハルデックスカップリング式4WDが採用されると思われる。
そして、さらに磨きがかかったトラクションコントロールやESPに加えて、最新の電子制御空力装置であるアクティブ・エアロダイナミクス・システム(ALA)によってダウンフォースは最大化され、瞬時の加速と高速コーナリングは洗練を極めることだろう。
動力性能の具体的数値はまだ明らかにされていないが、エンジンのパワーアップや空力性能の向上、マシンの軽量化を勘案すると、0-100㎞/h加速は2.8秒以下、最高速度は350㎞/h以上をマークすることは間違いないと思われる。
弾むバネのような瞬発的な加速力とニュル最速を叩き出した強靭でしなやかな足さばきは、サバンナで獲物を捕らえるべく急加速し、何度も急旋回を繰り返すチーターのような動物的躍動美を提供してくれるに違いない。
唯一の自然吸気V12エンジンを備えるマシンであることも忘れてはいけない。
うっとりするエンジンサウンドは、エンスージアストの魂を揺さぶるだろう。
▶初戴冠を狙うディーボ
市販車世界最速の名を欲しいままにしていたフランスの直線番長ブガッティであるが、ケーニヒセグ アゲーラRSの登場によりその王座を奪われ、今は無冠の帝王である。
そんなフランスの無冠の帝王は、シロンをベースにしたディーボで、サーキットでの初戴冠を狙う。ディーボはシロンと同等のスペックを備えるようであるが、クルマ全体のバランスを重視し、俊敏なハンドリングと軽快なフットワークを備えたサーキット志向となる。
とはいえ、ディーボに搭載される8ℓW16クアッドターボは1,500ps/1,600Nmを発揮し、0ー100km/h加速を2,5秒でこなし、最高速度は420km/hに達する。
こんなモンスター級のパワーがやんちゃでないはずがなく、どうやって手なずけるのか非常に興味が湧く。普通に考えれば、最もパワフルが故に、最も扱い難いクルマになろう。
ロデオ・カウボーイが操る獰猛な暴れ牛となるのか、ジョッキーと一体になって駆け抜けるサラブレッドとなるのか、ブガッティの技術力が問われる。
これまでのブガッティは、億をゆうに超えるプライスタグ、1,000ps以上のパワー、時速400キロ以上を誇る最高速度、贅を極めたスタイリングなど、超高級なスーパーカーの象徴として非常に分かりやすいクルマであった。
しかし、これから踏み込む領域は、数値が優れていれば合格という単純な世界ではない。もっと複雑で奥深く研ぎ澄まされた感覚と、積み重ねられてきたノウハウや経験がモノをいうスポーツの世界だ。
アスリートの世界では、いくらパワーがあろうとも、それをうまく使えなければ記録は伸びない。あり過ぎるパワーはバランスを崩す原因となり、パフォーマンスの低下を招く。バランスを保ちつつ最大限のパワーを発揮できる精確なポイントを探り当てるべく、数えきれない反復練習と試行錯誤を繰り返す。その過程で、常人では辿り着けない高みの煌々と輝く究極の感覚と技術を我がものとする。これは、モータースポーツの世界も同じである。
果たして、ディーボはその領域に到達できるか。
ディーボの価格はおよそ6億5,000万円と言われており、マクラーレン セナのおよそ6倍の価格である。このクラスのクルマを買う顧客層が「バリュー・フォー・マネー」を気にすることがないことは百も承知であるが、セナの6倍の価値とはいかなるものか、実際に確かめたい衝動に駆られる。
ブガッティ ディーボ、その真価やいかに。
▶公道を走るF-1、マクラーレン セナ
マクラーレン セナは、まだニュルブルクリンク北コースでのタイムアタックを行っていないが、その造りを見れば3台の中で最も高い潜在能力を秘めていると言って過言ではない。
ここでふと疑問が浮かぶ。なぜ、ニュルブルクリンク北コースでのタイムが、クルマの速さの絶対的尺度となっているのか。
答えは至ってシンプル。エンジンパフォーマンス、ブレーキング、ハンドリング、空力などの全てが揃ってないとニュルでは速く走れないからだ。特に、コース中にアップダウンがあることで、マシンの根本的な性能の良し悪しが図らずも露呈してしまう。ごまかしの効かない、テストサーキットなのである。
さて、話をマクラーレン セナに戻そう。
マクラーレン セナに搭載される4.0ℓV8ツインターボエンジンは800ps/800Nmを誇り、0-100㎞/h加速は2.8秒でこなし、0-200㎞/h加速は驚きの6.8秒で、最高速度は340㎞/hに達する。
そして、フルカーボン製の「モノケージIIIモノコック」シャシーにより、マクラーレン史上最軽量の1,198㎏のボディに800psを備えたことで、パワーウェイトレシオは驚愕の668ps/tを叩き出し、息をのむ加速力が論理的必然であることを改めて痛感する。
驚きの数値は、まだ終わらない。
マクラーレンの公式は、ハイパワー × 徹底した軽量化 × 空力の最大化である。
エアロダイナミクスを最大化すべくデザインされたボディは見た目ではなく、いかにダウンフォースを増やせるかを念頭において開発されている。その結果、「機能に沿ったフォルム」と可変フロントエアロブレードと可変リアウィングにより、250㎞/h走行時のダウンフォースは800㎏に達する。
1,200㎏にも満たないボディに800㎏もの重さが圧し掛かるのであるから、マシンが路面にピタリと張り付く感覚は異次元そのものだろう。
超軽量ボディと強力なダウンフォースにより、常にマシンの挙動を安定させることでコントロール可能な最大限のパワーをどんな状況からも一気に発揮できる。どんな状況でも潜在能力を使い切るというのは、まさにF-1の真骨頂。
そう、このクラスでは、潜在能力を使い切ることに最高の価値を見出すのである。レーシングカー顔負けの潜在能力をサーキットで大いに解き放ち、非日常のスリルや興奮を存分に味わうことにすべての情熱とエネルギーが注がれている。
マクラーレン セナは、この3台の中で唯一の後輪駆動である。そして、3台の中で一番軽く、ダウンフォースも恐らく最大を誇る。パワーは2番手に甘んじるが、それは使い切れる必要十分なパワーであるから、サーキットでは弱点とならない。
最先端のメカでありながら、風という自然からの贈り物を味方につけたマクラーレン セナは、「公道を走るF-1」の名に相応しい革新に満ちた魅惑の一台ではないだろうか。
音速の貴公子「アイルトン・セナ」も天国で、さぞ喜んでくれていることだろう。
▶マクラーレン VS フォルクスワーゲングループ
冒頭で三つ巴の戦いと述べたが、王座陥落したポルシェが黙って見ているわけがない。
近い将来、必ずや何かをやらかしてくれるはずだ。
そうなれば、三つ巴の戦いは、マクラーレン対フォルクスワーゲングループという一騎打ちの様相を呈すことになる。
イギリス VS ヨーロッパ連合(EU)との戦いとも見れるニュル最速を賭けた争いは、いろんな意味で、なかなか見応えのある戦いとなりそうだ。
Photo source:McLaren, LAMBORGHINI, BUGGATI, Nürburgring
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